国宝天守閣5城とは?重要文化財の7城とあわせて解説!

日本に残る歴史的建造物の数々は、その時代や地域における風習や文化、社会構造について学ぶ際の資料として大きな価値をもっています。実際にそのような建造物を訪れ、知的好奇心を刺激したり、過去との対話を試みたりする営みは、一生ものの趣味にもなりうるでしょう。

とりわけ、歴史ブームや戦国武将ブームを経た現在では、「お城巡り」を趣味とする人が増えています。城郭の美しさを楽しんだり、当時の時代背景から構造的な意味を考察したり、周辺の観光を満喫したりと、楽しみ方における選択肢の多さもお城巡りの魅力です。

お城巡りをはじめるにあたって、まず押さえておきたいのが「国宝」に指定されている5つの城郭でしょう。歴史的・文化的な価値はもちろん、周辺エリアに観光スポットが充実している城郭も多いため、初心者にとっても訪問しやすい環境が整っているのです。

この記事では、「国宝天守」の5城について、概要や見どころを解説していきます。あわせて、現存する12天守のうち、国宝天守以外の「重要文化財7城」についても紹介します。

天守が現存する城郭は「12基」のみ

城郭は日本の歴史を象徴する建造物であり、かつては数万もの城郭が国内に存在していたとする資料が残されています。一方で、時代の変遷とともに城郭は大幅に減少し、築城時の姿で残されている例はごくわずかです。

城郭が失われる歴史的契機としては、1615年の一国一城令や、1871年の廃城令が挙げられます。このような政治的制度を通じて多くの城郭が破却されたほか、第2次世界大戦によって消失し、再建が断念された城郭も少なくありません。

江戸時代までに建てられた城郭のうち、天守(城郭におけるメインの建造物:一般には「天守閣」と呼ばれることも多い)が築城時の形で残っているものは、全国に「12基」しかありません。いずれも国の「重要文化財」に指定されており、そのうちの5基は「国宝」に指定されています。

国宝に指定されている天守は、「姫路城(兵庫県)」「彦根城(滋賀県)」「松本城(長野県)」「松江城(島根県)」「犬山城(愛知県)」の5つ。重要文化財にあたる天守は、「弘前城(青森県)」「丸岡城(福井県)」「備中松山城(岡山県)」「丸亀城(香川県)」「松山城(愛媛県)」「宇和島城(愛媛県)」「高知城(高知県)」の7つです。

国宝と重要文化財はどう違う?

国宝とは、文化庁の指定する重要文化財のうち、世界的に見て比類のない価値を有するものを指します。

1950年に交付された「文化財保護法」により、日本に存在する有形文化財のうちでもとくに歴史的・文化的な価値の高いものを「重要文化財」として指定し、文化庁監督のもと保護・保存を行うことが定められました。

この重要文化財のうち、さらに比類のない財が「国宝」として指定されます。文化財保護法においては、国宝は「世界文化の見地から価値の高いもの」かつ「たぐいない国民の宝」として定義され、日本が世界に誇る建造物や工芸品が保護の対象となります。法律のうえでは、国宝は「重要文化財の1種」として扱われ、管理・監督に関する規定は同様です。

国宝と重要文化財を分かつ基準は定かではありませんが、文化庁による調査や専門家の審議を通じ、より優れた価値を認められたものが国宝に指定されます。たとえば2015年に国宝指定された松江城のケースでは、築城の時期を示す客観的な資料が発見されたことにより、歴史的価値がさらに高まりました。

歴史的資料としての価値や文化的背景、建造物の規模や用いられている技術など、総合的な観点から国宝指定は行われると考えられます。

国宝天守閣の5城を紹介

国宝天守5城はいずれも、高い文化的価値を公的に認められており、天守以外の建築物や周辺環境に対しても歴史的な重要性を見出されているケースが多いです。

国宝に指定される城郭に共通する特徴として、ライトアップなどのイベントをはじめ、一般の観光客に向けた催しが多く行われている点が挙げられます。城郭の歴史的背景や建築物の美しさを味わう以外にも、さまざまな楽しみ方ができるため、「初めてお城を訪れる」という人にもおすすめです。

姫路城(兵庫県)

姫路城

兵庫県姫路市の姫路城は、天守のほか櫓(やぐら)など多くの主要建造物が築城時の姿で残された大規模な城郭です。メインの天守は高さ・面積ともに日本一であり、遠方からもその堂々たる佇まいを目にすることができます。

2009年から2015年にかけて行われた「平成の大修理」により、白漆喰を基調とする上品な外観へと生まれ変わりました。ユネスコの世界遺産にも登録されており、海外からの観光客も多く見られます。

1346年の築城とされており、その後も城主に羽柴秀吉や池田輝政を迎えるなど、西日本の覇権争いにおける重要な拠点として機能しました。現在の天守が築城されたのは1609年、池田輝政の命によるものとされています。

建築物の美しさはもちろん、周辺の豊かな自然も見どころの1つです。近隣にある日本庭園「好古園(こうこえん)」をはじめ、四季折々の表情と歴史の情緒を存分に楽しめる環境になっています。

4月には城内の「西の丸庭園」において、ライトアップされた桜と姫路城を鑑賞する「姫路城夜桜会」も開催されるなど、季節ごとの催しも行われます。

外から眺めることはもちろん、天守の内部に入り、最上階まで昇ることも可能です。内部構造を確認しながら、展示されている多くの資料に触れることができ、知的好奇心を刺激するポイントが散りばめられています。

その他、AR技術を用いた「姫路城大発見アプリ」により、解説動画やご当地キャラとの撮影などを楽しむことができます。

(参照:「姫路城公式サイト」)

彦根城(滋賀県)

彦根城

彦根城は、滋賀県彦根市に位置する江戸初期の城郭です。比較的小ぶりな天守は、その細部における意匠が1つの特徴となっており、装飾性の高い城として広く人気を集めています。

月明かりに照らされた彦根城は「琵琶湖八景」にも選出されており、「夜の美しさ」も魅力です。城跡内の庭園「玄宮園(げんきゅうえん)」は紅葉の名所としても知られ、夜間にライトアップされた紅葉と彦根城を目にすることができます。

さらに、クリスマスやバレンタインの時期における周辺のイルミネーションや、城郭を用いたプロジェクトマッピングなど、幻想的な雰囲気を体験できる催しも必見です。

彦根城は、徳川家康の命により、彦根藩の井伊直継・井伊直孝が築城し、1622年頃に完成したとされています。訪れた際には天守の内部に入ることも可能ですが、展示物は少なく、建築構造や仕掛けについて若干の案内が掲示されている程度です。

城の南西には、小江戸の趣を残した「夢京橋キャッスルロード」が延び、甘味処や土産物店が軒を連ねているため、歴史情緒を堪能することができるでしょう。

(参照:「【公式】 国宝 彦根城」)

松本城(長野県)

松本城

長野県松本市の松本城は、モノトーンの荘厳な佇まいの天守を特徴とする城郭です。北アルプスを背景に構える静謐とした姿や、水堀に反射した情緒ある姿に魅了される人も多いでしょう。

5層6階の大型天守をもつ城郭としては最古のものであり、「連結複合式天守」と呼ばれる複雑な建築構造も注目される点の1つです。

築城は1504年とされ、信濃国の武将・小笠原貞朝の命によって建設が開始されたと伝えられています。当時は「深志城(ふかしじょう)」という名称で呼ばれていましたが、武田信玄によって信濃地方の拠点とされるなど、城主が入れ替わり改修も進むなか、名称も現在の松本城へと変わっていったと考えられています。

四季折々で変化する姿も魅力であり、春には庭園内のしだれ桜、冬には雪化粧した天守と、季節の趣を味わえるでしょう。

天守の内部も観覧可能であり、展示資料を見ながら最上階まで昇ることができます。その他、松本城VRアプリ「ストリートミュージアム」もリリースされており、敷地内では江戸時代の姿を再現したさまざまな映像を閲覧可能です。

城郭の周辺には、城下町の情緒を感じさせる街並みが多く残されています。クラフトショップや喫茶店など、ハイセンスな店舗が並ぶ「なわて通り」や、土蔵造りの建物が軒を連ねる「中町商店街」が知られ、大型連休などのシーズンには多くの観光客で賑わいます。

また、松本城は時代に先駆けて「御城印」を発売していたことでも知られており、御城印集めを趣味とする場合にはぜひともチェックしておきたい城郭です。

(参照:「国宝 松本城 – 松本城をより楽しむ公式ホームページ」)

松江城(島根県)

島根城

島根県松江市の松江城は、松江藩の初代藩主・堀尾忠氏により1611年に築城されたと伝えられています。その天守は黒を基調とした厳然たる佇まいが特徴です。

天守の最上階からは街の風景が一望できるほか、遠景に宍道湖(しんじこ)を臨めるため、訪れた際にはぜひこの景色を楽しんでおきたいところです。

城の周囲を流れる堀川と、そこを運行する遊覧船も名物の1つです。歴史的建造物の数々と四季折々の自然が織りなす景観を、船上から眺める体験は味わい深いものでしょう。

人気の催しとしては、松江城の周辺をライトアップする「松江水燈路(まつえすいとうろ)」というイベントがあります。伝統的な行燈(あんどん)が並べられ、LED装飾やプロジェクトマッピングとはまた異なる儚げな情緒を味わえます。毎年秋に開催されますが、2021年は新型コロナウィルスの感染状況を鑑み中止となりました。

明治期に建設された迎賓館「興雲閣(こううんかく)」も、城の敷地内にある一風変わった注目ポイントです。明治天皇の御宿所として建設された建物は、西洋風のレトロな外観と内装を特徴としており、近代以前には見られない味わいがあります。

周辺には小泉八雲記念館や武家屋敷など、城下町の雰囲気を感じさせる建造物がいくつも残され、散策しながら歴史情緒に触れることができるでしょう。

宍道湖や玉造温泉(たまつくりおんせん)も近隣に位置しているため、観光の際には歴史と自然、リラクゼーションと、さまざまな楽しみ方が可能です。

(参照:「国宝 松江城ホームページ」)

犬山城(愛知県)

犬山城

愛知県犬山市の犬山城は、木曽川沿いの断崖に近い丘の上にそびえる城郭です。

現存する木造の天守としては日本最古であり、1537年、織田信長の叔父にあたる織田信康によって築城されたと伝えられています。豊臣軍と徳川軍による小牧・長久手(こまき・ながくて)の戦いにおいて、豊臣秀吉が一時的な拠点としたことでも知られています。

天守の最上階には回廊が設置され、城下をぐるりと一望できることが特徴です。天守の内部には甲冑や戦場の図面など、貴重な資料も展示されています。

歴史情緒あふれる城下町も魅力の1つであり、城の東側にある名鉄犬山ホテル内の日本庭園「有楽苑(うらくえん)」には、国宝指定の茶室「如庵(じょあん)」が設置されています。有楽苑は保存修理のため2019年から公開を一時的に停止していますが、2022年3月より再開見込みとされており、営業再開後は茶道文化の歴史に触れることができるでしょう。

(参照:「国宝犬山城」)

重要文化財7城

重要文化財に指定される7基の天守も、個性的な外観や豊かな周辺環境など、見るべきポイントを数多く有しています。以下では城郭ごとの特徴や見どころを紹介していきます。

弘前城(青森県)

弘前城

青森県弘前市の弘前城は、1611年の築城とされ、東北地方で唯一天守が現存している城郭です。モノトーンの小ぶりな外観に、大雪に耐えるために重量のある瓦が採用されており、重々しい瓦の存在感が特徴となっています。

城郭は市の管理する「弘前公園」内に位置しています。同公園は「日本さくら名所100選」にも選ばれており、開花時期のゴールデンウィークには多くの人が訪れるなど、津軽地方における人気スポットの1つです。

(参照:「弘前公園総合情報」)

丸岡城(福井県)

丸岡城

1576年の築城と伝えられる福井県坂井市の丸岡城は、小高い丘の上にそびえる城郭です。北陸地方唯一の現存天守は、石で葺かれた屋根を特徴としており、同様の形式は他の現存天守には見られません。

日本庭園の様式に整備された「霞ヶ城公園」内に位置しており、公園には約400本のソメイヨシノが植えられ、「日本さくら名所100選」にも選出されています。

(参照:「丸岡城 公式サイト」)

備中松山城(岡山県)

備中松山城

岡山県高梁市の備中松山城は、現存天守のうちで最も標高の高い場所(430m)に建てられた城郭です。秋から冬にかけては雲海に包まれることもあり、「天空の山城」と呼ばれています。

最初の築城は1240年とされ、江戸時代の大改築によって近世城郭の形になったと伝えられています。

城郭から少し離れた展望台からは、天守や山並みを一望することが可能です。タイミングによっては雲海に包まれた天守を見られるため、人気の撮影スポットとなっています。

(参照:「備中松山城 – 高梁市公式ホームページ」)

丸亀城(香川県)

丸亀城

香川県丸亀市に位置する丸亀城は、1597年築城と伝えられており、現存するなかで最小の木造天守です。

真っ白な外壁が目を引きますが、何よりの特徴は周囲に張り巡らされた石垣の存在感でしょう。城郭のほか城下町にも堅牢な石垣が多く見られることから、「石垣の城」として知られています。

(参照:「丸亀城(日本100名城・現存十二天守)」)

松山城(愛媛県)

松山城

愛媛県松山市の松山城は、1602年から25年ほどかけて築城されたと伝えられています。大小の天守に複数の櫓など、多くの歴史的建造物を残している城郭です。

天守のある本丸のほか、二之丸、三之丸と広大な敷地面積を誇り、城郭を含む「城山公園」の全体が史跡となっています。

天守最上階からは、松山平野や瀬戸内海の景観を見渡すことが可能です。敷地内には市内を一望できるポイントが複数あり、夜景スポットとしても知られています。

(参照:「松山城」)

宇和島城(愛媛県)

宇和島城

愛媛県宇和島市の宇和島城は、豊かな自然の色彩に映える白い天守を特徴としています。築城の名手と呼ばれる藤堂高虎により、1601年に築かれました。五角形の城郭を四角形に見せかけるという、建築上の工夫が凝らされています。

宇和海からも近く、天守の最上階からは入り組んだ海岸線を臨むことが可能です。また、城山に生い茂る植物の種類は450種類にも上り、山と海の自然を存分に楽しめる環境になっています。

(参照:「宇和島城 – 宇和島市ホームページ」)

高知城(高知県)

高知城

高知県高知市に位置する高知城は、1601年から10年かけて建てられた城郭であり、美しい白漆喰の天守を特徴としています。城郭の本丸にある建造物は江戸時代から残されたものであり、とりわけ「本丸御殿」が天守とともに残っているのは現存12天守のうち高知城のみです。

夜間のライトアップイベントにも力が入れられており、「日本三大夜城」の1つに選ばれています。

(参照:「高知城 公式ホームページ」URL:)

まとめ

「お城巡り」はさまざまな角度から楽しめる趣味であり、知的好奇心の探究や美的鑑賞のほか、観光の一環として満喫することもできます。とりわけ国宝天守5城は、周辺環境からも歴史的な背景を感じ取れるものが多く、散策するだけでも情緒を味わえるでしょう。

自分なりの楽しみ方を見つけられれば、お城巡りは一生ものの趣味になります。まずは観光とともに著名な国宝天守などを訪れ、魅力に触れてみるのもいいかもしれません。